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大阪地方裁判所 平成10年(ワ)8457号 判決 2000年5月12日

原告

木嶋宣寿

被告

弘田喜章

ほか二名

主文

一  被告弘田喜章及び被告株式会社コーベフーズエキスプレスは、連帯して、原告に対し、金一六四八万九九四九円及びこれに対する平成七年五月二六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告安田火災海上保険株式会社は、原告に対し、前項の判決の確定を条件として、金一六四八万九九四九円及びこれに対する平成一〇年二月一九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告のその余の請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用は、これを一〇分し、その一を原告の、その余を被告らの負担とする。

五  この判決は、一項に限り仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

1  被告弘田喜章及び被告株式会社コーベフーズエキスプレスは、連帯して、原告に対し、金一八七六万五九三四円及びこれに対する平成七年五月二六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  被告安田火災海上保険株式会社は、原告に対し、前項の判決の確定を条件として、金一八七六万五九三四円及びこれに対する平成一〇年二月一九日(催告の日の翌日)から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

一  請求原因

1(本件事故)

(一)  日時 平成七年五月二六日午前六時五分ころ

(二)  場所 大阪府箕面市粟生新家四丁目二番七六号小野原交差点先路上(国道一七一号線)

(三)  加害車両 被告弘田喜章(以下「被告弘田」という。)運転の普通貨物自動車(神戸八八あ四九七四)

(四)  被害車両 原告(昭和五一年四月二日生、当時一九歳)運転の自動二輪車(一大阪ぬ八三〇八)

(五)  態様 原告は、被害車両を運転して、伊丹方向から茨木方面へ向かい直進中、被告弘田運転の加害車両が、Uターンを開始し、被害車両の進路を塞いだため、原告は、加害車両との衝突を回避しようと急制動をかけたところ、被害車両ごと転倒し、そのまま加害車両に衝突したもの

2(責任)

(一)  被告弘田

民法七〇九条

(二)  被告株式会社コーベフーズエキスプレス(以下「被告コーベフーズ」という。)

民法七一五条、自動車損害賠償保障法三条

3(傷害、治療経過)

(一)  傷害

左腎損傷、外傷性くも膜下出血、右橈骨・尺骨開放脱臼骨折、右上腕骨骨幹部骨折、右肘頭脱臼

(二)(1)  大阪大学医学部附属病院

平成七年五月二六日から同年六月一二日まで入院一八日間

(2) 豊中渡辺病院

平成七年六月一二日から同年九月三〇日まで入院一一一日間

平成七年一〇月一日から平成九年二月二九日まで通院(実通院日数一五六日)

(3) 市立豊中病院

平成九年三月三日から同年九月四日まで通院(実通院日数三二日)

右期間のうち、平成九年三月一一日から同月二六日まで入院一六日間

4(後遺障害)

後遺障害等級一二級六号(一上肢の三大関節中の一関節の機能に障害を残すもの)(自動車保険料率算定会認定)

右肘関節の可動域制限、右前腕の回旋内外の制限、右手関節の運動制限、右手環指の運動制限、DIP関節の屈伸制限、右肘関節周辺に異所性化骨の存在、右前腕末梢部に異所性化骨の存在、右尺骨末梢茎状突起の偽関節の存在

5(損害填補) 五五四万五五三七円

任意保険金 三三〇万五五三七円

自賠責保険金 二二四万円

6(被告安田火災に対する請求)

(一)  被告安田火災海上保険株式会社(以下「被告安田火災」という。)は、損害保険業を目的とする株式会社である。

(二)  本件保険契約

被告コーベフーズと被告安田火災は、加害車両について、本件事故発生日を保険期間とする保険金額対人無制限、対物五〇〇万円の自家用自動車総合保険契約を締結していた。

(三)  直接請求権

本件保険契約の約款には、事故による損害賠償請求権者の直接請求権が認められている。

(四)  催告

原告は被告安田火災に対し、平成一〇年二月一八日到達の書面により、一九一四万三九二七円(当時の計算に基づく)の保険金支払を請求した。

二  争点

1  症状固定日

(一) 原告

平成九年九月四日

(二) 被告ら

平成八年一二月一六日

2  損害

(一) 治療費 三一六万二四九五円

(二) 看護料 八〇万七五〇〇円

入院一日当たり五〇〇〇円の一四四日分(七二万円)

通院一日当たり三五〇〇円の二五日分(八万七五〇〇円)

(被告ら・仮に、看護料が認められるとしても、平成七年五月二六日から同年六月一日までの間のみである。)

(三) 入院雑費 一八万七二〇〇円

1300円×144日

(四) 装具類代 一一万〇一九一円(争いがない。)

(五) 交通費 一二万二〇〇〇円

(六) 逸失利益 一〇五六万三六〇〇円

二二歳賃金センサス 三二四万八〇〇〇円

一二級の労働能力喪失率 一四パーセント

就労可能期間 四五年(新ホフマン係数二三・二三一)

324万8000円×0.14×23.231

(被告ら・原告の年齢を考慮すると、将来的に労働能力が回復する蓋然性が高いと思われる。)

(七) 入通院慰謝料 三三四万円

重傷(外傷性くも膜下出血により意識不明の状況が続いた。)、入院期間一四四日、通院期間六三八日(517日+9日+112日[実通院日数32日×3.5])

(八) 後遺障害慰謝料 二三〇万円(争いがない。)

(九) 特別事情による慰謝料 一〇〇万円

原告は、本件事故により前期試験を受験することができなかった。また、追試を受けることもできなかった。そのため進級するについては大学との度重なる折衝及び勉学において一般学生に比して多大の努力をしなければならなかった。

加えて、平成一〇年春、夏における就職活動において、後遺障害がハンディキャップとなって、採用に難色を示され、未だに就職先が決まらず、原告は、多大の精神的苦痛を被っている。

これを慰謝するには、一〇〇万円をもって償うのが相当である。

(被告ら・原告の主張は既に、入院慰謝料及び後遺障害慰謝料の内容として評価されており、二重請求である。)

(一〇) 謝礼金 一一万円

右金額は、社会的相当性の範囲内の謝礼額であり、損害賠償の対象となる。

(一一) 鍼治療費 一三万五〇〇〇円

右腕の機能回復のために不可欠であり、有効な治療行為である。

(一二) 物損 七七万三四八五円

(被告ら・時価相当額四五万円の限度で認められるにすぎない。)

以上合計二二六一万一四七一円

(一三) 弁護士費用 一七〇万円

3  過失相殺

(一) 被告ら

原告は、本件事故現場道路付近が時速五〇キロメートルに制限されているのに、これを二〇キロメートル超える猛スピードで本件事故現場付近を走行したうえ、加害車両と衝突する約一二メートル手前路上で自ら転倒し、加害車両との衝突回避措置を何らとることなく、加害車両に衝突している。

確かに、被告弘田は、転回禁止場所を転回した過失があるが、原告が、制限速度を遵守し、かつ、転倒せずに衝突回避措置を講じたならば、本件事故は避けられたものである。

したがって、少なくとも二割の過失相殺がなされるべきである。

(二) 原告

本件事故現場は、回転禁止区域であるにもかかわらず、被告弘田は、回転禁止の義務に故意に違反して突然Uターンをしたため、原告は進行を妨害され、加害車両との衝突を回避するため急制動をしたところ、転倒して本件事故に至ったものである。

したがって、本件事故は、被告弘田の一方的な故意による違法行為により発生したものであり、原告に過失は存在せず(転回禁止区域内においては、併走車両は、法規を無視して突然転回行為をする車両があることを予測すべき義務はない。)、過失相殺はあり得ない。

第三判断

一  争点1(症状固定日)

前記争いのない事実3(傷害、治療経過)及び証拠(甲三、乙三、四の1、2、五の1ないし3)によれば、原告は、平成九年三月一二日、抜釘術を受けた後は、主に機能回復訓練を受けていたこと、市立豊中病院において、平成九年九月四日症状固定の診断を受けたことが認められ、右担当医師の判断について右時点以前に症状固定したものと認めるべき特段の事情は見出せず、原告の本件事故による負傷の程度からしても、右症状固定時期が不相当に遅延したともいえないから、原告の傷害についての症状固定日は、平成九年三月一二日と認めるのが相当である。

二  争点2(損害)

1  治療費 三一六万二四九五円(弁論の全趣旨)

2  看護料 六四万円

証拠(甲五)によれば、原告の入院期間中及び通院について原告の母である木嶋憲子が付添をしたことが認められるが、証拠(甲七)及び原告の傷害の部位、程度からすると、平成七年六月一二日から同年九月三〇日までの入院期間一二八日間については付添看護の必要性を認めることができるが、その余については、右必要性を認めるには至らない。

付添看護費は一日当たり五〇〇〇円とするのが相当であるから、合計64万円となる。

3  入院雑費 一八万七二〇〇円

入院雑費は、一日当たり一三〇〇円とするのが相当であるから、入院期間一四四日分で一八万七二〇〇円となる。

4  装具類代 一一万〇一九一円(争いがない。)

5  交通費 一二万二〇〇〇円(甲一〇)

6  逸失利益 一〇五六万三六〇〇円

証拠(甲一六、原告本人)によれば、原告は、本件事故当時満一九歳で大学一年生であったこと、平成一〇年三月同大学を卒業し、就職したことが認められ、これに原告の後遺障害の部位、程度からすると、原告の逸失利益は、原告主張のとおり一〇五六万三六〇〇円と認められる。

7  入通院慰謝料 三〇〇万円

原告の傷害の部位、程度及び入通院状況等本件に表われて諸般の事情を考慮すると、原告の入通院慰謝料は三〇〇万円と認めるのが相当である。

8  後遺障害慰謝料 二三〇万円(争いがない。)

9  特別事情による慰謝料

原告の主張する事情については、入通院慰謝料及び後遺障害慰謝料において考慮されており、右とは別に慰謝料を認めることはできない。

10  謝礼金

医師、看護婦等に対する謝礼の支払は、患者として全く任意になされるべきものであるから、本件事故と相当因果関係を認めることはできない。

11  鍼治療費

針治療については、医師の指示に基づくものであったことを認めるに足りる証拠はなく、本件事故との相当因果関係を認めるには至らない。

12  物損 四五万円

証拠(乙二)によれば、被害車両の時価額は四五万円であることが認められ、修理に要する費用は七七万三四八五円である(甲一三の1、2)から、被害車両は経済的全損として、時価額である四五万円の限度で賠償請求できるに過ぎない。

13  以上を合計すると、二〇五三万五四八六円となる。

三  争点3(過失相殺)

前記争いのない事実1(本件事故)に証拠(乙一、六の1、5、ないし11、原告本人)によれば、次の事実が認められる。

1  本件事故現場は、片側二車線の歩車道の区別のある東西方向の道路であり、最高速度を時速五〇キロメートルに、また、同場所は転回禁止の規制がなされている。

2  被告弘田は、加害車両を運転して、西から東に向かい本件事故現場に至り、転回して西方向に向かうため、いったん東行車線の第一車線(歩道寄り車線)の北側端付近で減速し、右後方を見たところ、後方約八〇メートル地点に被害車両が走行してくるのを認めたが、先に転回できるものと軽信し、合図をすることなく、転回を開始したところ、加害車両が中央線にまたがったところ付近で、加害車両の転回行為のため進路を塞がれ、急制動の措置を取り、転倒した被害車両が加害車両の右側後部付近に衝突した。

3  原告は、被害車両を運転して、時速約六〇ないし七〇キロメートルで本件事故現場道路の東行車線の第二車線を走行していたところ、加害車両が転回を開始し、その進路を塞がれたため、急制動の措置を取り、その制御が不能となって転倒し、原告もろとも加害車両に衝突した。

以上の事実が認められ、これを覆すに足りる証拠はない。

右に認定の事実によれば、原告にも制限速度違反の過失があるが、本件事故発生は専ら被告弘田が転回禁止場所において、後方からの車両の動静に十分注意を払うことなく、かつ合図をせずに転回を開始した過失にあるというべきであるから、本件においては、過失相殺はしないのが相当である。

四  損害填補(五五四万五五三七円)

前記損害額二〇五三万五四八六円から既払金五五四万五五三七円を控除すると、一四九八万九九四九円となる。

五  弁護士費用 一五〇万円

本件事故と相当因果関係のある弁護士費用は、一五〇万円と認めるのが相当である。

六  よって、原告の請求は、被告弘田及び被告コーベフーズに対し、金一六四八万九九四九円及びこれに対する本件事故の日である平成七年五月二六日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を、被告安田火災に対し、本判決確定を条件に、金一六四八万九九四九円及びこれに対する催告の日の翌日である平成一〇年二月一九日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。

(裁判官 吉波佳希)

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